I・T・O のバルク20 年検査安全施工への取り組みについて(JLPA機関誌 Vol.54 No.3, 2017掲載)
本記事は、JLPA機関誌『LPガスプラント』 Vol.54 No.3(2017), PP.16~19に掲載したものを著作者様の同意を得て掲載させていただいております。
I・T・O株式会社
I・T・O はバルク20年検査への対応においても「安全・品質・CS(Customer Satisfaction:顧客満足)」をモットーにお客様に選ばれる企業を目指しています。
ガスが充填されたバルク貯槽は重量物であることから,バルク貯槽の取替工事において,搬出方法のみならず,その作業方法についても細心の注意を払う必要が有ります。
労働基準法では重量物運搬についての規程があり,単に重量制限を守ることだけでなく,取扱い回数なども考えて作業時間,人員の配置などを考える必要があります。
I・T・O では危険が伴う重量物の運搬に関する作業について,以下の安全施工を実施していますのでご紹介いたします。
1.重量物の運搬方法について(スピードローラーを活用した安全対策・省力化の実施)
バルク貯槽の取替現場においては,20 年の歳月の中で,設置先に大きな変化が生じている状況が多く,中にはユニック車が使用出来ず,人力でバルク貯槽を搬出・搬入する必要があるといった困難な現場が数多く見受けられます。
人力によるバルク貯槽の取替工事にあたり,以前はキャスター式の重量物運搬具を使用していました。
その際,ガスが充填されたバルク貯槽を運搬する時に,液の移動によりバルク貯槽が不安定になることが有り,荷崩れによる事故の発生を防止する観点から安全対策として,重量物の運搬に安定性のあるスピードローラーを採用することといたしました。
スピードローラーは,狭い範囲での方向転換が可能でかつ,キャスター式の運搬具に比べて安定性を保つことができ,かつ省力で重量物を移動することが可能となるなどの特徴が有ります。
また,スピードローラーにバルク貯槽をボルトで固定することによって,いわゆる台車からの荷崩れによる事故の防止に繋がることから,作業従事者の安全も確保することが出来ます。
参考1:スピードローラー
スピードローラーの導入と併せて,搬出時に利用するコンパネについても改善を図りました。
以前は大型のベニヤ製を使用していましたが,狭い搬出経路への設置が困難なこと,重量もあり,設営に人力がかなり必要となること,重量物の運搬の際に破損してしまうことが多く見受けられたことから,樹脂製コンパネを導入することといたしました。
樹脂製コンパネは,大型のベニヤ製コンパネに比べ,軽量でかつ設置が容易であり,現場での省スペース化を図ることが可能となったことから,作業効率を上げるメリットがありました。
このように,人力による搬入に関し,新たな機材を導入することにより,作業従事者の安全対策・省力化を図っています。
参考2:樹脂製コンパネ
2.ユニック車(積載形トラッククレーン)の搬出に関する安全対策について
ユニック車は「吊る」「積む」「運ぶ」という一連の作業が一台で行えるため,様々な業種で広く使われています。バルク貯槽の取替作業現場においても,ユニック車を活用する場面も多いことから,事故の発生を防ぐために安全対策を講じる必要があります。
ユニック車による事故は,吊り上げ,吊り下げ時の機体,構造部分の折損,転倒によるものが全体の6割を占めるとされています。
現状において,撤去するバルク貯槽の多くに残ガスが入っている状況が見受けられることから,上記に掲げる事故の発生を防ぐには,残ガスの量を勘案しつつ,工事内容に見合ったユニック車の選定が必須となります。
そのため,I・T・O では,一般的なユニック車(4t)の吊り上げ可能距離についてバルク貯槽のサイズ(満充填時の重量)を参考にアウトリガーの張り出しについて取りまとめ,現場での作業判断ミスが無いよう改善を図りました。(P19「ユニック車(4t)吊り上げ可能距離参考表」参照)
また,I・T・O では,バルク20 年検査への対応の際に,ガスが充填されたバルク貯槽を運搬するに当たって必要となる諸知識について,委託物流会社の運送員に対して勉強会を開き,修了書を付与し,作業の安全の確保に努めています。
3.バルク20 年検査入替工事に関する最近の注意事項とその対応について
I・T・Oでは常に安全施工,無事故を心掛けて作業をしておりますが,現場毎にその置かれている環境は様々で,その施工方法も千差万別です。I・T・Oは多くの現場での経験を活かし,お客様へ確かなサービス提供を行うことを心掛けています。
今回は,その経験の中で得た注意すべき事項とその対応についての事例についてご紹介いたします。
事例1:電線近くのクレーン作業についての注意事項とその対応について
バルク貯槽20 年検査の施工現場においては,クレーンを使用する場面も多々あります。
この現場は,バルク貯槽の上部に架空線が通っていたため,その接触等による感電災害への注意が必要でした。
クレーン作業による感電災害では玉掛け作業の従事者が負傷することが多く,最悪の場合,死亡に至ることも考えられます。
災害が発生した場合,作業従事者の尊い命を失う上に,労働災害として企業責任を問われることとなり,その損失は計りしれないものとなります。
また,公共交通機関の影響や地域生活への影響を与える等,社会的にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
そのため,I・T・Oでは災害を防止するため,以下の点に注意し施行を行いました。
・作業実施前の現場調査確認において,送電線や配電線等の有無をチェックする。
・送電線等(電話線も含む)がある場合は電力会社等に連絡をする。
・感電の危険性について作業従事者に確実に周知し,安全施工を遵守させる。
今回の施工では,事前に電力会社とNTTの2 種類の架空線があったため,それぞれの問合せ窓口に連絡し,架空線に防護管を設ける措置を講じていただきました。
参考4:防護管
なお,防護管の設置工事を行なってもらうにあたっては,電柱に記載されるプレート番号を伝える必要があり,最短でも工事の2週間前に連絡する必要がありました。
I・T・Oでは,20 年検査の施工現場の調査においては,バルク貯槽の上部の電線の有無について,必ず現場写真を撮影し,当社独自の「バルクワンスルーシステム」のサーバーにデータを蓄積しております。
安全かつ確実な施工を実施するには,現場調査結果の正しい情報を作業従事者全員が共有すること,施工計画を綿密に立てることが重要だと考えます。
事例2:車両重量の重いラフタークレーン等の入出庫に関する注意事項とその対応について
この事例は,工事現場にラフタークレーンが入庫する際,お客様先の駐車場のアスファルトを陥没させてしまったものです。
駐車場全体がアスファルト引きである場合,走行で割れることは余りないようですが,今回の現場の駐車場は,基本砂利引きであり,陥没箇所は駐車場の出入り口付近に敷かれたアスファルトで発生しました。
工事前の現場調査を,ラフタークレーン会社が実施したにもかかわらず,このような事象が発生いたしました。
今回の教訓から,今後の施工対応として,現地調査において車両の入出庫経路についても,細心の注意を払うこととし,地盤の状況に応じて「敷き鉄板」敷設等の措置を講じることとしました。
図)ユニック車(4t)吊り上げの可能距離参考表