2021年度 製造事業所等における保守検査時の不具合収集結果及び解説
検査事業者委員会
検査問題調査対策部会
検査事業者委員会の委員各社からのご協力による報告を,当部会が取り纏める不具合収集活動は,液化石油ガス製造施設における保安・保全の一助となることを目的に,「保安検査の方法を定める告示」(平成17年(2005)年3月30日経済産業省告示第84号)が制定された翌年の平成18(2006)年度より,保安検査基準に定められた項目毎に,保守検査(定期自主検査及び保安検査準備検査等)時の不具合収集を開始し,その収集結果に解説を加え,不具合写真事例と共に継続して本誌に掲載してまいりました。
尚,前年度からの試みとして,直感的に不具合発生状況を把握していただく目的で,過去数年間において発生率が高い傾向にある不具合項目のグラフも引き続き掲載しております。是非ともご参照ください。
1. LPG定置式プラント貯槽精密検査時(開放検査)の不具合について
2021年度実績では,253基の貯槽精密検査結果報告をいただいた。
まず,前回の精密検査からの期間について着目すると,最長10年に延長されている現在でも,5年以内に実施している貯槽の割合が最も多く,充?施設で48%,消費施設で55.13%,次いで10年が続き,充填施設で21.14%,消費施設で26.92%となっており,2020年度と同様の傾向をみせている(2020年度から前回開放検査からの経過期間調査開始)。こうした「保安検査の方法を定める告示」以前の周期実績を重んじる事業所と,同告示での最長周期を採用し設備維持コストを重視する事業所との2極化が目立つ一方,6~9年周期といった貯槽割合もわずかに増えております。今後,開放検査周期に対する考え方の多様化が進む可能性から,その判断をするためにも,この調査項目は継続していきたい。
1)「貯槽本体」
近年,貯槽本体の不具合による溶接補修は溶接技術の向上により少なくなっているが,グラインダ処理(発生数6件,発生率2.37%)は毎年少なからず報告が有り,今回も処理の結果,全て異常なしという結果であった。
Fig.1 貯槽精密検査において確認されたグラインダ処理の推移
よって,グラインダ処理の報告自体は不具合ではないが,貯槽破壊に繋がる欠陥かどうかを見極めるための大切な工程であり,未然に深刻な欠陥進行を除去した記録ともいえるため,発生状況の把握は重要である。
参考までに,2017年度から2021年度までの5年間の「グラインダ処理」の確認割合をFig.1にグラフ化した。
また,現場からの声として,雨水等の残留が原因で発生する貯槽ノズル水平フランジ面の腐食発生が少なからず上がってきている。これまで,当調査では対象となっていないが,今後は追加確認項目として検討していきたい。
2)「貯槽附属機器」
貯槽の附属機器では,今回,遮断弁の「耐圧部の減肉が認められた」が最も多く14件が報告された(発生率4.31%)。尚,耐圧部の減肉については,貯槽元弁(3件,発生率0.12%),ボールチャッキ弁(2件,発生率1.37%)でも報告があった。
遮断弁に係わらず耐圧部の減肉は,例年ではほとんど報告がなかった不具合である。
また,遮断弁の「操作機構に異常が認められた」については3件(発生率0.92%)で,毎年件数は少ないが必ず報告がある不具合項目である。
一方,元弁の「交換したシール材に異常が認められた」は,例年多く報告されてきたが,今回は無かった。従って,貯槽の附属機器に関する不具合発生状況は例年と傾向が異なる結果となったが,この傾向が今回に限るものであるのか,今回が転換点であるのかは,更に不具合収集を続けることによって明らかになるものと思われる。
よって,ご参考までに,Fig.2に示す貯槽精密検査における附属機器不具合推移グラフでは,過去得られたデータを鑑み,「遮断弁耐圧部の減肉」,「遮断弁操作機構の異常」及び「貯槽元弁の交換したシール材の異常」の3項目をグラフ化した。
Fig.2 貯槽(精密検査)附属機器において発生率が高かった不具合推移
また,貯槽の附属機器の計画的な交換が進んできており,貯槽元弁101台,遮断弁8台,逆止弁2台,安全弁5台及びマグネットフロート液面計2台の交換が報告されている。
精密検査を実施した貯槽の元弁総数を,2,500(分解点検を実施した数)+3(不具合により交換した数)+101(計画的に交換した数)=2,604台と考えると約3.9%の元弁が計画的に交換されている計算になる。ちなみに2020年度は約8%,2019年度は約10%,2018年度は約12%。貯槽自体の更新が難しい代わりに重要弁の交換をすることは,保安上より良い選択であると考える。
ご参考までに弁類交換の推移状況を視覚的に分かり易くするため,2021年度を含む過去4年間(2017年度までは,計画的な交換は不具合データとして収集していなかったため)に交換された数をFig.3に示す。
2. LPG定置式プラント普通検査時の不具合について
定置式プラント普通検査結果報告をいただいた施設数は2063ヶ所であった。
発生率が高かった不具合項目として,
〇「安全弁作動不良」661件(発生率32.04%)具体例として,設定圧力許容範囲外作動
〇「圧力計精度不良」375件(発生率18.18%)具体例として,器差許容範囲外指示
〇「ガス漏えい検知警報設備作動不良」353件(発生率17.11%)
具体例として,濃度指示値調整,ゼロ点調整
〇「散水設備作動不良」410件(防消火発生率18.32%,貯槽の耐熱・冷却発生率1.55%)
具体例として,散水ノズル目詰り,配管破損が挙げられ,順位の入れ替わりはあるものの,例年,この4要素が上位を占めている。いずれも条件次第では,事故に繋がる可能性がある不具合である。
これらの不具合のうち,散水設備は起動させることで,圧力計精度については同系統にある他の圧力計指示値と見比べることで,日常運用の際でも不具合に気付くことが出来るが,安全弁作動不良により吹き始め圧力が設定圧力よりも高い場合には,過大な圧力が設備に掛かり大変危険な状態となる可能性があるため,専用機器を使用した検査の役割は重要となる。
また,ガス漏えい検知警報設備作動不良については,検知部センサー感度が悪くなっている場合には,滞留したガスが爆発濃度を超えた危険な状態となる可能性があるため,標準ガス等を用いた精度検査は定期的に行う必要がある。
先に挙げた不具合に比べ発生率は低いが,気密性能の不具合(ガス漏えい)は直接的に事故に繋がるため,検査事業者は多くの時間を掛けて気密試験による漏えいの有無をチェックしている。その結果,高圧ガス設備で,配管系の漏えい112件(発生率5.43%)が多く,原因としては,貯槽や機器類のように定期的な分解点検やメーカーによるメンテナンスが行われていない施設が多いと考えられる。
参考までに,発生率が高い傾向にある不具合について過去5年を振り返ったグラフをFig.4に示す。
安全弁作動不良が常に突出し,圧力計精度不良,ガス漏えい検知警報設備作動不良,散水設備作動不良,配管系漏えいと続いていることがグラフからも読み取れる。
また,不具合発生率は低いものの「警戒標表示」,「設備基礎」,「接地抵抗測定」,「保安電力作動検査」,「遮断弁作動」及び「消火器」に係る不具合も毎年報告されている。
Fig.4 定置式プラント普通検査において発生率が高かった不具合推移
3. 充てん設備・移動式製造設備保守点検時の不具合について
充てん設備・移動式製造設備では828基の結果報告をいただいた。発生率が高かった不具合項目として,「気密試験(ガス漏えい発生率2.9%)」,「充てんホースキズ(発生率1.21%)均圧ホースキズ(発生率0.72%)」,「温度計精度(発生率0.85%)」及び「圧力計精度(発生率2.05%)」が報告されている。これら4項目は定置式のプラントと比較すると発生率は低いものの,市街地等でも稼働する行動範囲を考えるとその影響が異なるため過小評価はできない。
これらを重点点検項目として定めるのは重要である。圧力計と温度計については現場で異変に気づいてもすぐに点検することは難しい為,定期自主検査・保安検査準備検査等による点検が欠かせない。
参考までに発生率が高い傾向にある不具合について過去5年を振り返ったグラフをFig.5に示す。
Fig.5 充てん設備・移動式製造設備保守検査において発生率が高かった不具合推移
【総括として】
不具合の発生しやすい「圧力計」「安全弁」「気密性能」及び「散水設備」といった検査項目は毎年ほぼ同様の傾向を示していますが長期間に渡り少しずつ変化していく可能性があります。
不具合収集結果は受領した不具合事例を数値化し不具合発生個数と発生率不具合発生率を掲載しておりますが単年数値のみでは製造事業所の保安と保全の状況を把握することは困難です。
解説文中に挿入された不具合推移グラフはそうした変化に気付き,その原因について考察するための資料としてご活用いただけると考えておりますので引き続き掲載してまいります。
定期的な検査を行い第三者的な視点で不具合箇所を見つけ即時改善する(していただく)流れが施設の保安と保全に寄与することは明らかであり更に検査時の不具合箇所を記録・集計した本稿によりLPGプラントにおける不具合発生傾向を把握しておくことは日常・月例点検の際にも役立つことと考えます。
結びとして,保守検査時の不具合収集のご協力いただいたJLPA検査事業者委員会所属事業者の方々に深い感謝を込め,御礼申し上げます。