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岩谷液化ガスターミナルにおける現場の安全への取組み(JLPA機関誌 Vol.59 No.3, 2022掲載)

本記事は、JLPA機関誌『ガスプラント』 Vol.59 No.3(2022), PP.9~12に掲載したものを著作者様の同意を得て掲載させていただいております。


 

岩谷液化ガスターミナル株式会社
代表取締役社長 齊田 吉治

1. まえがき

 この度は,100%出資会社の岩谷産業株式会社殿より当基地紹介の推薦を戴きましたので,岩谷液化ガスターミナルの安全への取組みをご紹介させて戴きます。
 岩谷液化ガスターミナル株式会社は1979年12月8日に設立し,基地は翌年の1980年(昭和55年)8月,岩谷産業株式会社最初の輸入ターミナルとして完成いたしました。
 敷地面積約5万5千㎡,貯蔵能力は2万トンの低温タンクが4基,球形タンクが4基の合計約8万3千トンとなります。
 当基地は一次基地としては珍しく,二次基地と三次基地の機能を併せ持ち,海外からのLPGの受入れから国内各地へのコースタルタンカー・ローリでの出荷機能,更にはシリンダー充填機能も備えています。
 また,関西電力が販売している都市ガスを増熱するためのプロパンガスを配管にて関西電力に供給しております。

2. 概要

 膨大なLPガスを取り扱う責任の重さを自覚し,絶対的使命である「保安の確保」を最優先事項とし,『安全操業』『安定供給』に努めております。
 コンプライアンスの徹底を図り,関係法令,諸規則を遵守するとともに企業の社会的責任を果たすため,リスク管理の教育・訓練を徹底し,津波を含めたあらゆる緊急事態に対応出来るように万全の備えを行っております。

3. 詳細

(1)構内設備の細部に亘る点検,維持管理の徹底

1)年度計画,中期計画の立案と実行と検証。
 40年以上経過する設備が多い中,設備の異常を早期発見するために危険物安全月間並びに高圧ガス保安促進週間の時期に,社内全体で一斉に設備全体を隈なく点検,また,基地完成以来の経験を活かし,開放検査,機器更新工事,補修工事に優先順位を設け,次年度及び中長期の設備保全計画に盛り込んでおります。
  年度末には社内全体で活動計画の評価を行い,今後の計画の見直しも含め総括しております。
2)サビゼロ運動の推進。
 保冷材のある配管を特に点検強化し,設備点検により発見された不良個所に関しては今後の修繕計画を行う他,保冷材の無い配管に関して外観が著しく痛みのある配管は,悪化する前に管理職を含めた社内全体で短期間にケレン・錆止め塗装・上塗り塗装までを行う「サビゼロ運動」と表した取組みを推進しています。

サビゼロ運動風景

3)ドローンを活用した設備保全。
 高所により人による目視がしづらい箇所や災害時に人が近づきにくい場合にドローンを活用した点検が有効と考え,現在,社外のドローン操作講習を受講してドローンの運転技術を高める活動を行うと共に,岩谷産業株式会社環境保安部と協議し,安全かつ最適な点検が行えるよう検討しています。

ドローン運転風景

(2)安定供給体制の強化,予防保全の徹底

1)ローリ運送会社乗務員に対する安全指導の徹底と良好な人間関係の構築。
 ローリ乗務員には,新規で入構される方へは事前に行う入構教育により構内ルールを周知する他,常に安全な操作を行っているか年間を通して各乗務員を評価し,優良な方へは年間表彰を行うことで安全の意識を高めています。また,定期的なローリ車両安全点検を運送会社と協力しながら実施し,安全に関する装備の不備や移動監視者免状等の不携帯などが無いかチェックし,各運送会社に注意を促すことで予防保全を徹底しています。
2)イワタニ堺安全協力会の活動の一層の活性化と協力関係の強化充実。
 当基地に入出構する内航船舶の運航会社,タンクローリ運送会社,容器運送会社等に関係する会社を会員とした「イワタニ堺安全協力会」と称した協力会を結成し,海上及び陸上輸送の災害発生の防止,安全かつ円滑で効率的な荷役作業を実行することを目的とした活動を行っています。
 この協力会により,会員相互間の綿密な連携をとることで協力関係の強化と共に各運送会社へ予防保全や安全意識の向上と徹底がなされております。
3)作業リスクの社内共有。
 リスクアセスメントを現場だけでなく,定期的に社内全体で取組むことによりリスクの共有化を図っています。また,基地に入構される協力会社には作業前にリスクアセスメントシートを毎日提出していただき,作業員への周知の他,そのシートを社内で共有化しながら,あらゆる作業にも全社で情報共有できる体制を整えています。
4)新型コロナウイルス対策。
 新型コロナウイルス対策に関しては,専用のBCP を制定し,感染状況に対応した社内ガイドラインを全社員に周知した上,社員出社時の手消毒・検温,外来者は全員検温記録を実施し,万が一の状況に備えております。輸入基地という立場から入出荷作業に影響がない様,常に定期的な事務所内の消毒と換気の徹底や,社員同士一定の距離を取ったマスク着用による環境での作業を実施しております。

(3)南海トラフ巨大地震をはじめとする大規模災害への備え

1)想定最大規模1.7m~ 2.2mの浸水を想定した対策指針の策定と訓練の実施。
 南海トラフ巨大地震を想定した防災対策基準を設け,周辺の企業と連携した大型タンカーの緊急離桟通信テスト計画を立てる他,基地の中枢となる中央計器室の2階への移設,電気室や無停電装置室周囲に防水板を新設し,津波対策に備えています。

新型コロナウイルス対策

防水板の設置

2)公設消防との連携強化,共同訓練の実施。
 大規模地震による津波避難訓練も含めた防災訓練を計画し,当社で編成する自衛防災隊と公設消防と合同で定期的に実施することにより,普段から有事に備えています。

防災訓練状況

(4)社員の能力,スキル向上を図る為の諸施策の実施

 新入社員に関しては1 ヶ月間集中的に社員教育を行ったうえで各部署に配属する他,部署異動した社員に対しては,各部署の配置転換社員育成計画表に基づいた社員教育を数ヶ年計画で進め,計画的に力量評価を図った教育を進めることで,明確に個々のスキル向上の施策を実施しております。
 また,必要な資格に関しては積極的に会社が講習費及び試験費用を負担し,特に高圧ガス製造保安責任者甲種や第2 種電気主任技術者などの合格者には表彰と褒賞を与えるなどキャンペーン化することや,高圧ガス製造保安責任者乙種を昇格条件に加えることにより,各社員のモチベーションを上げると共にスキル向上を図る施策を実施しています。

(5)法令遵守

 弊社における関係法令は数多く存在しますが,その中でも代表的な法令としては,高圧ガス保安法・消防法・石油コンビナート等災害防止法・労働基準法・労働安全衛生法などが挙げられます。
1)高圧ガス保安法については,危害予防規定を制定し,基地の組織として事業所長を保安統括者とした保安管理組織を定め,保安技術管理者として必須となる高圧ガス製造保安責任者甲種取得者を4名確保,また,その他保安係員等に必要な乙種もほとんどの社員が取得し,万全の体制を整えております。
2)消防法・石油コンビナート等災害防止法については,基地内における社員で構成された自衛防災隊を設け,火災などの事故・自然災害などにおける異常に対し,常に対応できるよう定期的な防災訓練を計画する他,消防自動車による放水取扱い訓練や空気呼吸器装着訓練,大型タンカーの緊急離桟時の綱外し訓練を定期的に全社にて実施することにより,有事の際の意識を全社員常に高めています。
3)保安に関する会議として保安管理委員会,技術的な話し合いの場として技術検討会,労基・労安に関する安全衛生委員会と,安全を維持するために重要な3 つの会議を毎月同時に開催することにより,より安定的な安全管理を進めています。

4. まとめ

 分散型で災害に強いLP ガスは,自然の脅威にさらされることの多い我が国にあって,まさに広く世の中から必要とされるエネルギーであり,これを安全かつ安定的に供給することこそが,我々岩谷液化ガスターミナルの最大の使命と考えております。
 この大きな使命を守り抜くには「保安の確保」を最優先とした『安全操業』『安定供給』の継続であり,災害に強いエネルギー拠点として社員一人ひとりが力を合わせ,広く社会に貢献できるよう,日々努力し続けたいと考えています。