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バルク貯槽の告示検査に係わる日本溶接容器工業会の取り組みについて(JLPA機関誌 Vol.55 No.4, 2018掲載)

本記事は、JLPA機関誌『ガスプラント』 Vol.55 No.4(2018), PP.19~23に掲載したものを著作者様の同意を得て掲載させていただいております。


一般社団法人日本溶接容器工業会
専務理事 川村 五作

はじめに
 バルク貯槽は平成9年の液化石油ガス法改正より普及が始まり,平成29 年時には全国で約30万基が設置されるに至りました。バルク貯槽は製造後20 年で検査を行うこととなっていますが,多くの貯槽が新規交換等により廃棄処分されることが予想されております。
 このため当工業会と致しましては,過去の事例に鑑み,保安の確保並びに公害防止の観点からバルク貯槽のくず化処理については,容器・貯槽メーカが処理業界と積極的に協力してくず化に当たる必要があるとの立場から「バルク貯槽処理工場認定制度」に関する関係規程の整備を平成29年4月に行い,本件事業を平成29年度から開始することと致しました。

1.制度創設の背景

 昭和30年代から昭和40年代前半には,廃棄容器のくず化過程において災害事故が頻発したことから災害事故防止のため通産省では昭和45年4月15日付け通牒「液化石油ガス容器のくず化について」により各都道府県にくず化につき指導を行って来ました。
 しかしながら,定められた設備等を有しない処理事業者等が不適切な方法で処理を行い事故を起こしたり,又は臭気を発生させて地域住民との紛争を起こした事例もありました。
 このため,当工業会はLPガス関連団体から学識経験者を委員とする「LPガス容器処理認定委員会」を設置し,この委員会により関係規程の整備を行い,昭和51年に「LPガス容器処理認定制度」を創設し,適正な処理を行うことができる事業者を認定・支援することにより,LPガス容器のくず化に関する適正な処理に努めて参りました。
 今般,バルク貯槽の告示検査に伴ってバルク貯槽の廃棄処分に当たり,平成27年3月に一般処理事業者を対象として4団体(全国高圧ガス容器検査協会,日本高圧ガス容器バルブ工業会,日本エルピーガスプラント協会,日本溶接容器工業会)によって作成された「バルク貯槽くず化要領書」(現在この要領書は,日団協で内容精査のうえ,くず化指針として公表。)をベースとして,当工業会はこれまでの廃棄容器の認定制度を継続発展させ,保安の一層の強化を図るため,必要な規程を新設し,本件事業を開始するに至りました。

2.バルク貯槽くず化処理のポイント

 上記の要領書を踏まえ,当工業会では認定基準を3分類(認定規程,くず化設備基準,くず化方法の基準)に整理しております。認定を受けるには,これらの基準をクリアする必要があります。その中で,認定事業者に関し,概して厳格な要件を課していますが,逆に(3)の項目については,選択肢を広げ,残ガスをスチーム置換する装置を追加しました。

(1)自主保安の高度化を目指して(写真提供:丸大産業㈱)

 バルク貯槽をくず化しようとする際,保安確保上,極めて慎重さを求められるものが残ガスの処理です。バルク貯槽の残ガス量は,かなり多いのが現実です。残ガスの処理について作業現場において,例えばバルク貯槽の鏡面に全作業員が一目で作業状況を把握出来るよう必要情報を赤ペンキで記載するなど自主的に小さな作業を惜しまないことが大きな事故を未然に防ぐために大切です。当工業会では小さな作業を積み重ねることによって自主保安の高度化につなげていきたいと考えています。この趣旨から,くず化認定規程第26条に「会員は,処理工場の認定を受けたときは,自主保安の高度化に資するリスクアセスメント,人材育成及び事故情報の活用に努めるものとする。」という条文を盛り込み,今般,この実施要領も整備しました。

バルク貯槽 鏡面

1)貯槽刻印番号
2)貯槽引き上げ日
3)残液量(%)
4)ガス回収日(完了 OK)
5)水置換実施日(完了 OK)
  貯槽内のガス濃度測定後、穴あけ作業
6)穴あけ作業日(完了 OK)

 

高圧残ガス貯槽
(加圧用貯槽)
No.1
残ガス貯槽
(残液回収用貯槽)
No.2
ベーパ―ガス貯槽
(ベーパ―ガス回収用貯槽)
No.3

 

残ガス回収風景

残ガス回収手順
1)加圧
 No.1貯槽の高い圧力にてバルク貯槽を加圧します。
 (タンク内圧力約0.9MPa~1.1MPa)
2)残液回収
 No.2貯槽へ残液を送り込み液回収を行います。
 (タンク内圧力約0.3~0.4MPa)
3)ベーパ―ガス回収
 No.3貯槽へ、ベーパ―ガスを回収します。
4)真空引き
 真空ポンプと燃焼炉を利用してバルク貯槽内圧を真空状態にします。

 

 (2)マニフェスト(処理管理表)について(様式2)

 もう一つ重要なことは,廃棄容器の処理当時から実施しているマニフェストの活用です。
 廃棄容器は有価物として産業廃棄物の適用を受けません。実際には,残ガスの処理に伴い細心の注意を払っていることの証しとして昭和51年当時から今日までマニフェストを活用して来ました。しかし,容器のくず化認定規程には,根拠規定がありませんでした。このバルク貯槽のマニフェストは,同認定規程第25条によって「会員は,処理工場の認定を受けた時は様式2の高圧ガス容器・バルク貯槽処理管理表により処理しなければならない。」と規定化して容器・バルク貯槽とも今般,使用の義務付けを行いました。

(3)スチームによる置換について(写真提供:日本エネルギー㈱)

 当初の要領書では,残ガスを置換する装置として水,窒素による置換のみが記述されていて他の手段は認められていませんでした。有効な置換方法としてスチームによる置換を盛り込みました。当初要領書による水置換では作業効率と設備面で負荷が大きく,窒素置換では経済性が悪い。スチーム置換はドレン分除去に効果が大きく,置換後の残ガスの再発生を防ぐ上で極めて有効であり,今般,くず化設備基準の中に盛り込んだところです。

 

(4)容器置き場の面積確保について(参考資料)

 バルク貯槽のくず化処理に当たっては,バルク貯槽は容器に比べてかなり大きいので「容器置場の面積」「屋根の有無」「タンク容量の確保」は極めて重要と認識しておりますが,各事業所で運用が千差万別あること等により,今回,いずれも統一した基準設定は見送りとなりました。しかし,「容器置場の面積」について運用上の参考基準を設定し基準解説のなかに参考資料として載せてあります。都道府県の担当者とのご相談の際等に判断材料の一つとして活用して頂きたいところです。

3. 当工業会における課題(看板)

 バルク貯槽くず化について,認定事業を通して事業者等関係者一丸となって,自主的にきめ細かな保安対策を貫こうとする取リ組みは,全国各地域に普及することが目標と考えております。
 具体的には,現在,九州,沖縄に認定事業者がおりません。是非ともこの地域の事業者に認定事業者となっていただいて認定事業者の看板を掲げていただけますよう働きかけを行っております。新進気鋭の認定事業者の出現を大いに期待しております。

4. 認定事業者一覧(平成30年7月26日現在)

 当工業会理事会において,計18社,計20事業所が認定されております。

 

 


参考資料
 「容器置場の面積確保」について
 ・一日当たりの処理予定数は内容量の合計とし,その数量は7050㍑/日(3000kg) とした。
 JLPA202より内容積,内径,長さの値を参照し,その内径と長さは最大値に作業スペース600mmを加えた値とした。

内容積 内径m 長さm 必要面積㎡
746 ㍑(300kg) 7050÷ 746 約10本 1.415 × 2.240 32
1243 ㍑(500kg) 7050÷1243 約 6本 1.600 × 2.543 25
2487 ㍑(1000kg) 7050÷2487 約 3本 2.000 × 2.980 18

 バルク貯槽の組み合わせにより必要面積が変わることから,認定に必要とする面積は,300kgバルクで換算する事がよいと考える,ただしシリンダ容器も同一事業所で処理されると考えるとさらに置場面積は広く必要になると考える。