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石井鐵工所における安全への取組み(JLPA機関誌 Vo.57 No.4, 2020掲載)

本記事は、JLPA機関誌『ガスプラント』 Vol.57 No.4(2020), PP.15~20に掲載したものを著作者様の同意を得て掲載させていただいております。


株式会社石井鐵工所
安全管理室長 小峯 泰一郎

1.はじめに

 (株)石井鐵工所は1900年に現在,本社があります東京都中央区月島の地に創業され,爾来120年に亘り,大形低温タンクをはじめとする数多くの各種タンク,プラント類等鉄鋼構造物の設計から製作・建設・試運転まで,一貫したエンジニアリング事業を通して国内のお客様のみならず,世界40ヵ国を超えるお客様からも高い評価をいただいております。また,1961 年に発足いたしました JLPAの設立に尽力し,石井寛前社長及び石井宏治社長が約40年に亘り会長を務め,その間,会員の皆様のご協力を得てLPガス設備の安全と事業者保安の向上に貢献いたしました。
 筆者は1990年に入社し,工事部,技術研究所及び製造部勤務を経て,2009年に安全衛生を担当する部門である「安全管理室」に配属され,2018年から現職を務めています。安全管理の基本は,「安全環境の仕組みづくり」と「作業者の安全意識の向上」であり,そのためには社内と現場,更には現場で働く工事関係者間の良好なコミュニケーションと信頼関係の醸成が不可欠と考えております。この方針をもとに現在進めている当社の安全への取組みを紹介させていただきます。

2.労働災害の現況

 建設業においては,1972年(昭和47年)に労働安全衛生法が施行されて以降,労働災害が減少してきました(図1)。また,労働災害の型別では,墜落・転落災害や転倒災害が多くなっています(図2)。

図1 平成31年労働災害統計(建災防資料より)

 労働災害が発生する一因として,利益や納期を優先し,安全が後回しになってしまう実情があるように思います。働く人が安全重視の考えを持ち,自主的に安全対策を施し安全作業ができるようになれば,災害は更に減少すると確信しています。

図2 労働災害発生状況(厚生労働省発表)

3.当社の労働安全衛生活動

 主な行事を中心に当社の安全衛生活動を紹介します。社内,現場,協力会社が一致団結してそれぞれの活動に取組んでいます。

(1)安全衛生マネジメントシステム

  OHSAS18001*¹ をベースに当社独自の労働安全衛生マネジメントシステム(OHSMS)*² のマニュアルを作成し,安全衛生活動を実施してきました。しかし,2018 年にISO45001*³(JISQ45001*⁴・JISQ45100*⁵)が発行されたのを受け,JISQ45001・JISQ45100 に準じたシステムに移行しました。トップマネジメントの労働安全衛生方針に従い各部門で年間計画を作成し,PDCAサイクルを回しながら,リスクアセスメントに力を入れた安全衛生活動を実施しています。
 *1 OHSAS18001:労働安全衛生(又は職業上の健康と安全)審査シリーズ
          労働安全衛生リスクの管理とそのパフォーマンスを向上させる仕組み
          (Occupational Health & Safety Assessment Series)
 *2 OHSMS:労働安全衛生マネジメントシステム( Occupational Health & Safety Management System)
 *3 ISO45001:労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格
 *4 JIS Q45001:労働安全衛生マネジメントシステム – 要求事項及び利用の手引(ISO45001 と内容は同じ)
 *5 JIS Q45100:労働安全衛生マネジメントシステム – 要求事項及び利用の手引 – 安全衛生活動等に対する追加要求事項

(2)安全スローガン

 年度初めに全社員及び協力会社の社員から安全スローガンを募集しています。応募作の中から優秀な作品を表彰し,最優秀作品はリボンバッジ(写真1)を作り,一年間全社員及び工事関係者が胸に付けて安全意識の向上を図っています。

写真1 リボンバッジ

(3)監督会議

 社内と現場とのコミュニケーションの場として,年2回開催しています。現場所長が一堂に会する会議で,当社の年間計画や社内各部門のトピックスを伝えるだけでなく,現場で働く監督から様々な現場事情や要望等を聴く貴重な機会としています。

(4)スパイラルアップ会議

 当社と協力会社のコミュニケーションの場として,年2回開催しています。協力会社の代表者にお集まりいただく会議であり,工事部門の年度方針の確認や法改正への対応,無事故・無災害の表彰,時々の諸問題をテーマに意見交換や事例発表を行っています。スパイラルアップ会議は当初「安全対策会議」と称されていました。かつて現場での事故が連続して発生した時期があり,お互いの「何とかしなくては」という思いが一致して始まりました。その後,現場環境は改善し,「次のレベルを目指そう」という思いからスパイラルアップ会議と改称しました。

(5)その他の安全衛生活動

  1)安全衛生委員会の設置
  2)産業医による健康相談日(毎月)
  3)安全衛生ニュースの発行(毎月)
  4)事業所安全パトロール(毎月)
  5)現場安全パトロール(詳細は 4 項)
  6)全国安全週間の週間行事
  7)全国労働衛生週間の週間行事
  8)CSR 活動(職場の 5S や事業所周辺の清掃・美化運動等)

4.現場安全パトロール

 筆者が安全管理室に配属されて以来,注力している現場安全パトロールについて紹介します。パトロール結果を社内,現場,協力会社で共有する中で,新たな改善のアイデアが生まれ,それを現場に取り込むことで健康で安全な環境を整備しています。

(1)実施概要

 現場では,月初めに監督による現場自主パトロールを実施します。その結果は社内に報告され,安全管理室と工事部門との情報共有を図っています。
 安全管理室が主導する現場安全パトロールは,年間 40 ~ 50 件を実施しています。

(2)現場各所のチェックポイント

 現場安全パトロールにおける各所のチェックポイントを以下に示します。最近は,現場での自主的な良い安全衛生活動を,他の現場に水平展開することに力を入れています。

【事務所】
1) 法的書類
2) 緊急連絡体制表 
3) 入構者教育及び誓約書
4) 有資格者の名簿
5) 血圧測定の実施
6) 安全宣言等の各種掲示物,等

【休憩所】
1) 整理整頓
2) 整理棚やロッカーの設置
3) イベント・注意喚起ポスターの掲示
4) 熱中症対策
5) 分煙の実施
6) トイレの衛生状態
7) 空調設備や換気
8) 観葉植物等による環境美化,等

【 作業現場】
1)安全掲示板の設置
2)リスクアセスメント危険予防(RKY)活動の実施
3)安全標識
4)機器及び器具(吊りワイヤ等)の点検
5)消火器の設置
6)資材置場・産業廃棄物置場の区画と表示
7)労働安全衛生規則に従った足場の設置
8)墜落制止用器具(安全帯)の使用
9)タンク入槽管理
10)立入禁止措置(作業エリア・重機周り),等

(3)パトロール巡回時の状況

 現場安全パトロールは,必ず現場の作業責任者と一緒に実施します。

写真2 パトロール巡回時の状況

(4)事例紹介

1)血圧測定,朝礼時の片足立ち等

 作業者の体調の確認をするため,新規入構者,長期休暇明けの者,高年齢者を対象に血圧測定を実施します。また,朝礼時には「片足立ち」により体調をチェックしたり,「肩たたき&肩もみ運動」により体をほぐしたりしています。

 

写真3 血圧測定,朝礼後の片足立ち等

2)安全宣言

 協力会社の作業責任者には,安全宣言として自ら目標を定めてもらい,目標達成に向け安全作業を主導していただきます。

協力会社のグループや作業責任者個人で写真を入れて作成

写真4 安全宣言

3)熱中症対策

 作業場所近傍に簡易休憩所(冷房機器,水分補給,熱中対症策飴,冷却グッズ等を常備)を設置しています。

 

*1 熱中症対策キット内容:水分・塩分補給用に経口補水液,水,スポーツドリンク,体の急冷用に瞬間冷却スプレー,瞬間冷却パック,電子体温計,扇子,吸汗速乾タオル,熱中症対策飴等

写真5 熱中症対策

4)安全掲示板

 工事現場の前には掲示板を設置し,当社工事部標準に従い,緊急連絡表,工事体制表,工事工程表,有資格者一覧,作業指示書,RKY等を掲示します。安全標語や,スローガンポスターについても,見やすく分かりやすい掲示を心掛けています。

写真6 安全掲示板

5)安全通路

 タンク内は暗い上に障害物があるので,安全通路を確保するため点滅式のチューブライトを設置して,立会者・監督・作業者の安全通行に役立てています。

写真7 安全通路

5.おわりに

  安全優先・安全第一が大事であることは衆目の一致するところですが,安全作業を確実に行えるようになるには,経験と共に教育・訓練が必要になります。
 例えばクルマに乗ればシートベルトを無意識に掛けるのは習慣になっていると思いますが,安全帯を無意識に手摺に掛けるには,どうすればよいでしょうか。答えは,安全作業を習慣付けることだと思います。そのためには,安全管理者が普段から指導や教育・訓練を繰り返し行うことが必要です。また,作業者一人ひとりが「労働災害を絶対に起こさない」という自覚をもって,毎日の作業に臨むように,作業者の意識向上を図ることも重要です。
 これからも習慣付けや作業者とのコミュニケーションを大切にし,気付いたその場ですぐに指摘できる安全管理者を目指すと共に,次世代の安全を担う人材を育てていきたいと思います。
 皆様におかれましても,労働災害を防止するため様々な安全衛生活動に取り組まれていることと思います。
 労働災害の撲滅を願う同志として,本稿が更なる活動の活性化に向けた一助となることを望みます。

  ご安全に!