ガス保安検査株式会社における現場の安全への取組み(JLPA機関誌 Vol.59 No.2 2022掲載)
本記事は、JLPA機関誌『ガスプラント』 Vol.59 No.2(2022), PP.19~22に掲載したものを著作者様の同意を得て掲載させていただいております。
ガス保安検査株式会社
取締役保安検査部長 大場明彦
1. まえがき
ガス保安検査は,岩谷産業グループの検査専門企業として2001年5月に設立し,昨年20周年を迎えた比較的新しい企業です。高圧ガス設備検査の専門会社を創設すべく,グループの検査員を集約し,設立と同時に経済産業省から指定保安検査機関として指定を受ける等,実力を備えた検査専門会社として誕生しました。指定保安検査機関としては,全国47都道府県で液石則,一般則及びコンビ則の保安検査が実施できる唯一の機関であり,小規模な高圧ガス設備の点検からLPG輸入基地の保安検査はもとより,近年注目を浴びている水素ステーションの保安検査も数多くの実績を有しています。
コンプライアンスを最優先とし,高度な検査技術を培いながら確固たる使命感を持ち,日々高圧ガス保安へ貢献すべく,全国7ヶ所の事業所を展開しています。
2. 概要
ガス保安検査が検査を行う作業場所の大半が,高圧ガス設備が設置されている顧客の工場敷地内になります。従って,そこでの負傷・事故,更には災害を起こした場合,弊社のみならず顧客へ多大なご迷惑をお掛けすることになります。
また,現場へ検査車両で移動するため,交通事故対策も重要となります。
過去の内外の事故・災害事例やトラブルを総括し,その対策に取組んでおり,以下の活動を展開しております。
(1)ヒヤリ・ハット事例収集と活用PDCA
(2)検査用設備・器具の整備・点検管理
(3)検査員研修
(4)交通安全対策
(5)検査対象設備の老朽化等の指導・啓発
(6)熱中症対策,COVID19対策
3. 詳細
(1)ヒヤリ・ハット事例収集と活用PDCA
リスクアセスメントを高圧ガス業界でも取組んでいく気運が高まりつつあった2012 年,ハインリッヒの法則(1:29:300 の法則)から,ヒヤリ・ハット事例を根絶することこそ無事故・無災害につながると認識し,PDCA サイクルに基づく以下のような活動を始めました。
- 【ヒヤリ・ハット収集】(開始当初:約600 件/ 年,現在:約300 件/ 年)
- ・ポケットサイズの「ヒヤリハットメモ」(B7サイズ)を検査員に配布し,常時携帯し直ぐに記録できるようにしました。内容は,発生日時・発生場所・原因を簡単に記入できるものとしました。
- ・自らがミスをしたという意識を持つ恐れのあるため,提出者に躊躇させないように匿名制をとりました。
- ・提出数を増やすため,本社運営者が検査現場で実際に業務を行い,参考事例を数多く提出し,検査員が提出しやすい気運を作りました。
- 【予防措置案立案】
- ・収集したヒヤリ・ハット事例を毎月集計し,分類(場所,現象,原因等),評価(発生頻度,事故になった場合の重要度)し,その情報をグラフ化,更に原因や状況を分析の上,予防措置対策及びKYK(危険予知活動)強化テーマを立案します。
- 【予防措置案の展開・実施】
- ・集計されたヒヤリ・ハット事例のグラフ化等のデータ,予防措置案及びKYK強化テーマを事業所に展開し,事故・災害の芽を摘み取ります。
ヒヤリ・ハットメモ
ヒヤリ・ハット集計後のグラフ化
強化テーマによるKYK
(2)検査用設備・器具の整備・点検管理
我々が検査を行うために必要とする検査用設備・器具は,圧力・温度等の計測器具,各種非破壊試験用器具,高圧ガス設備を加圧するための耐圧・気密試験用器具等多種多様です。
これらの管理は,クラウドを利用しIT 化しており,設備本体に貼付したQR コードをスマートフォンで読取り,データの呼び出しを可能にし,日常点検簿作成,設備台帳への履歴記載,一覧表作成,有効期限管理が行えます。
IT 化による作業の省力化に加え,器具のトレーサビリティー管理を確実なものとし,正しい検査の実施により,高圧ガスの事故防止を実現させています。
(3)検査員研修
これらの安全への取組みを,現場で検査する社員への周知徹底を行わなければ,対策が機能しません。検査員に対する階層別の教育を年間計画し,検査の重要性,法令等改正,検査技術情報等に加え,安全に関する事項及び本文に掲載している安全対策に関するアウトプット情報,安全対策実施への周知徹底を行っています。
(4)交通安全対策
検査現場へのアクセスは,やや大型の車両を使用します。弊社は,全国をカバーしているため走行距離も長く,交通事故の可能性も少なくありませんでした。
その対策として,全車両に以下の装備を行っています。
- ・デジタルタコメーターを装備し,速度超過等の問題が発生した場合に警告音が鳴ります。また,そのデータを管理者が集計し,毎月公表します。この結果,速度違反を撲滅でき,燃費も向上しました。
- ・バックモニター及びコーナーセンサーを装備し,接触事故の防止を図っています。
(5)検査対象設備の老朽化等の指導・啓発
高圧ガス設備を有する事業所が普段操作しない部分を,検査のために我々が操作することが数多くあります。そのことに起因して発生するトラブルも少なからずあります。
もっとも,我々の不手際で起こしてしまう例もありますが,原因が設備の老朽化と思われる場合も少なくなくありません。顧客が日常携わっていない部分を検査で操作したためトラブルが発生するということで,クレームになる場合があります。このような経験から,機器設備が製造から数十年経過している場合は,顧客に更新を推奨する等,トラブルを防止する活動を始めました。
検査車輌
車載のデジタルタコメーター
(6)熱中症対策・COVID19対策
検査の殆どが屋外作業であるため,毎年5月頃に「熱中症対策強化」を呼びかけます。
以下の対策を講じています。
- ・熱中症対策グッズを検査に使用する車両各車に搭載し,発症防止及び発症時に備える。
- ・温度・室温計と警戒状況を感知し,熱中症の警戒度が上がれば休憩を多めにとる。
- ・大型製氷機を各事業所で設置し,検査車両毎にクーラーボックスを配備しスポーツドリンク等を大量に保管し,適切な水分・塩分補給を行う。
また,COVID19対応として2020年4月には,BCP(事業継続計画)と併せて対策を立案しました。この対策は,COVID19の変貌とその感染傾向により,常に対策を見直しております。当社は,検査員を現場に派遣するため,テレワークが実施できず,そのためにお客様と直接接することになり,一般的な企業より慎重な対応をとっています。オミクロン株の流行下である2022年2月末時点では,以下のような内容で運用しています。 - ・社員の健康状態のチェックと報告義務化(社内での感染を防止する。)
- ・基本的には,社員の居住する自治体による「新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けた取組み」に従う。
- ・マスク着用,うがい・手洗いの励行,咳エチケットの徹底,時差出勤の採用
- ・事務所スペースでのソーシャルディスタンスの確保(パーティション設置)
- ・検査車両内の消毒
- ・三密の回避
- ・食事の個食・黙食(独りで,黙って)
- ・重症化要因のある社員及び家族に対する養護(在宅勤務等の徹底)
- ・発熱症状(体温37.0℃以上,以下同じ。)がある場合は出勤を停止し,適切な病院に受診し,PCR検査の受検を行う。
- ・感染者及び濃厚接触者は,基本的に保健所の指導のとおりとするが,それに加えて,以下の全ての条件を満たしてから出勤を可とする。(当社独自基準) ①発熱または感染者の接触日から14日経過した日を過ぎた日
②3日前から体調が良好であること。
③PCR検査を受診し,陰性であること。 - ・感染者及び濃厚接触者を含む感染の容疑がある社員並びに家族の健康状態を報告させ,徹底した感染拡大を防止する。
- ・同居人が発熱した場合も,自宅待機とする。
- ・協力会社及び仕入先での発熱等の症状があった場合,報告頂くよう通知し,社内と同じ運用をとる。
4. まとめ
ガス保安検査では,前述のとおりコンプライアンスを第一義とし,各種の安全対策をシステマティック,かつ,総合的に実施し,事故・災害防止に取組んでいます。我々検査会社は,検査を行い,問題を検出し,改善を推奨し,事故・災害を撲滅することが使命です。そんな我々が,検査を行うことで事故・災害を起こしてしまうことは本末転倒です。
やはり肝要なことは,従業員に対する教育で,安全に対する意識を持続して持たせることが最も重要であると考えています。
コロナ禍の影響を受け教育実施には大きな制約を受けておりますが,今後もしっかりと高圧ガス設備の健全化を目指して,検査による公共の安全の確保に寄与してまいります。