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桂精機製作所のバルク20年告示検査の取り組みについて(JLPA機関誌 Vol.54 No.4, 2017掲載)

 本記事は、JLPA機関誌『LPガスプラント』 Vol.54 No.4(2017), PP.19~22に掲載したものを著作者様の同意を得て掲載させていただいております。

株式会社 桂精機製作所

1.これまでの取り組み

 桂精機製作所は,平成17年からバルク20年告示検査に向けた取り組みを開始しました。当時は移送基準の緩和措置も打ち出されていなかったこともあり,現地での検査,容器検査場での検査,廃棄処理に際してはバルク貯槽の液・ガスを空にする必要があると考え,バルク貯槽設置先で貯槽内の残留ガスを安全に抜くことをテーマとしてスタートしました。株式会社エイムテック社(熊本県熊本市)が大容量配管の温度補正による気密検査装置を手がける際に,配管の中にあるガスを地下ピット等で安全に抜くための活性炭真空引き装置があるとの話から,バルク貯槽の検査の際のガス処理ができるのでは,ということで,平成18年,19年度の経済産業省の委託事業として株式会社エイムテック社が中心となり,バルク貯槽からガスを抜くための取り組が始まりました。この開発は,残留ガス回収車のガス回収カードルとなりました。平成21年,22年でNEDOの補助事業として取り組んだのが,安全に液を回収する方法です。ピストンポンプを利用する等での回収方法が検討されましたが,サンリン株式会社 様から,圧力差による移充填方式の案が提示され,この方法に特化した研究が行われました。残留ガス回収車の液回収装置です。これを合体した残留ガス回収システムの製作にあたっては,販売事業者各位とのプロジェクトを立ち上げ,皆さんのご意見を集約し,バルクローリーが充填できるスペースで処理ができるようにということで現在のスペックが決定しました。

残ガス回収装置

残ガス回収装置(東京都届け出)
「処理設備のない移動式製造設備による第二種製造者」

 この開発期間中平行して手がけたのが,①高性能容器 ②仮設供給ユニット ③残ガス処理バーナーです。また,安心安全に作業をするために,④バルク貯槽支援システム(Bulktank Working Support System : BWS)を株式会社エイムテック社と協同で開発しました。
 高性能容器は,二重容器になっていてガスを使い始めると,容器の内部で圧力差が生じ,外壁に面して液面が持ち上げられ,残液量が少なくなっても熱交換面積を広く保つことができる構造になっています。計画消費,撤去作業中の仮設供給の際に少ない本数(省スペース)で対応が可能です。

高性能容器

高性能容器

 仮設供給ユニットは,流過抵抗を少なくし,「残液をできるだけメーターを通して供給する」というコンセプトで設計しました。また,切替圧力は,ガスが少なくなった状態で,できるだけ着臭剤の臭いが燃焼時に出ない段階で切り替わるような設定になっていますので,極限までメーターを通して消費者に供給することができます(使用条件によって異なります)。オプションで用意されているNCU(Network Control Unit)で,切替信号を発信し,工事のタイミングを推定することができます。撤去時の液の残量を極力少なくすることのメリットは,移動式クレーンでの吊り上げ,残液処理費用の低減にも役立ちます。

仮設供給ユニット

仮設供給ユニット

 残留ガス回収車を使用するケースは,①残液の多い段階でも撤去が必要なケースで,液を抜かないとクレーンで吊ることができない場合。②埋設バルクで掘り起こし作業をする際に,ガスが入った状態では重機が使えず,手掘りをしなくてはいけない場合。③バルク貯槽内の残留ガスを回収車で抜き,窒素置換を行って大気圧状態にして,重機を使うことで作業効率が上がる場合。④ガスを抜き,その他容器にすることで後工程を簡略したい場合。⑤安全に運送したい場合。⑥その他。初期のバルク貯槽はメーカーによっては肉厚が厚いため1.1倍の重量のものもあり,残液が少なくても吊るのが困難な場合があり注意が必要です。
 BWSは,バルク貯槽の設置現場の確認から,廃棄までの工程を見える化したアプリケーションソフトで,iPadにインストールして情報を共有して作業を行います。また,関連法令やKHK基準を解説や参考資料として添付,「知らなかった」「見落とした」「気づかなかった」などによる事故を未然に防ぎます。バルク貯槽の現状把握から撤去・廃棄処理工程の一元管理を行います。
 これらの開発商品を駆使し,安心・安全・スピーディーに作業を行うことに徹しています。

BWS

BWS

BWS

2.撤去実績を踏まえ,販売事業者の皆様にお願いしたいこと

<事前準備を綿密に実施>
 バルク20年検査(撤去)においては,現場調査を徹底的に行うことと,販売事業者様とのコミュニケーション,また一番重要なのが,販売事業者様と設置先オーナー様とのコミュニケーションです。仕事の分担を事前に打ち合わせし,工事の段取りをしっかり組むことが必要になります。
 中には,工事日に工事車両を駐車するスペースの確保ができず,作業を延期したり残液量が30%であった筈が,前日に充填がされていて予定の移動式クレーンで吊り上げることができなかった等現場調査時や事前打ち合わせが不十分なためのトラブルもあります。万全の準備をしていても当日の工事が外部的な要因でできなくなることも少なくありません。
<前倒し,平準化の必要性>
 平成10年から本年7月のバルク貯槽の生産実績は,一般社団法人溶接容器工業会のデータによると290,000基を超えました。バルク貯槽の生産数は開始から9年間で176,000基となっています。前倒し平準化を実施して,告示検査を実施したとして,来年度から9年間平均すると1年間で,19,600基の処理が必要になります。バルクローリー所有数が一番多い静岡県は,推定ですが月間100基超の処理が現在行われているようですが,全国的にはまだ手つかずのエリアが多いようです。関東エリアを例にとると,平成16年7,400基が出荷されており,1日の必要処理数は60基となりますが,平準化前倒しが実現できれば35基程度に軽減されます。
 桂精機製作所が実施した撤去作業では,バルクからシリンダーに供給方式を変更した比率は,300kgが76%,500kgが31%,1tが10%,平均すると42%がシリンダーへの移行となっています。竪・横比率が変わってくれば,シリンダー化比率も変わってきます。たとえば50%がシリンダー化されたとしても,現在の生産数8,000~9,000基と合わせ平成36年は25,000基のバルク貯槽が必要になります。
 現在のバルク貯槽メーカーの生産能力が追いつくかが問題になります。また,工事業者にとってもバルク撤去工事は,これまでの工事にプラスされることになるとともに,ガスが残っている状態での工事のため慎重に行うことが必要になるため,工事業者の不足が懸念されます。
 また残液の処理についてですが,平均30%の残液が残っているとすると15,800トン(家庭業務用消費量の0.25%に相当)の残液処理設備の不足が懸念されます。

3.現在の取り組み

 搬出作業については前回I・T・O株式会社 様が詳細に書かれていましたので大変勉強になりました。業界全体で事故のなきように協力して取り組んで行きたいと考えます。
 20年の時代が流れ,設置されているバルクの周囲の環境が大きく変わっていることが多く見受けられます。設置したときは回りに何もなく,すんなり設置できたのですが,周囲に新しいマンションが建ち,物置が建てられ,植栽が植えられるなどで容易に撤去できないケースがあるようです。大手の販売事業者様のお話では,全件数を現場調査したところ,引き出せないと思われる箇所が約7%あったとのことです。
 現在,移動式クレーン,ラフタークレーン,手押しでも撤去不可能なバルクを処理するシステムにチャレンジしています。概要としては,残留ガス回収車で液,ガスを負圧まで引き,スチームボイラ,燃焼装置でLPガスを置換するとともに,洗浄を行いバルク貯槽内のLPガス濃度をほぼゼロ%にした状態で,周囲を養生し人が運べる重さに溶断します。
 バルクくず化ガイドラインに盛り込まれた「バルク貯槽のスチーム置換作業ガイドライン」を現地で行うことを検討しています。これには現地でガスを抜く設備がどうしても必要になるため,ガス回収車が必須となります。ここで残留ガス回収車の出番になります。廃棄する貯槽を安全に処理するためには,バルク貯槽の内部を負圧まで下げ,中に残るガス分を極力減らすことが必要になります。スチームを吹き込み,逆火防止容器を介して残ガス燃焼バーナーでスチームとLPガスの混合ガスを燃焼させます。ここでカツラの脱臭燃焼技術が生きてきます。現地で作業を行う際に,「においが漏れない」ことと「なるべく音を出さない」ように処理することです。桂精機製作所の神奈川工場内で実験室レベルの実験を繰り返しています。
 なお,現地での残留ガスの燃焼,混合ガスの燃焼をする場合,消防への届出と,バーナーの周囲を囲うなど,近隣住民の方に配慮して行うことが必要になります。
 160kgスチームボイラ,35mリール2基,発電機,逆火防止装置,混合ガス燃焼装置等を駆使して現場で実施できるよう研究中です。
 現場での溶断方法も4種類の方法でデモを行い車両への積載条件,周囲への影響度,溶断スピードなどを測定しています。
 また,残留ガス回収車は現在関東エリアで使用している株式会社日本エネルギーMIYAMAブルーガスセンター容器検査工場(東京都八王子市)常設の1台ですが,今年中に東海,中国,九州エリアに置き,残留ガス回収作業を行うことになります。バルク20年告示検査は,業界全体として取り組む大きな課題です。皆様と協力しながら遂行すべき事業です。弊社としても少しでもお役に立てるよう今後も努力いたします。

カツラ安全・安心プログラム

 

混合ガス燃焼装置 混合ガス燃焼装置

酸素・アセチレンによる溶断 酸素・アセチレンによる溶断

プラズマによる溶断 プラズマによる溶断

ガソリンによる溶断ガソリンによる溶断

ランサー棒による溶断ランサー棒による溶断