窒素置換によるバルク貯槽くず化(JLPA機関誌 Vol.57 No.2, 2020掲載)
本記事は、JLPA機関誌『ガスプラント』 Vol.57 No.2(2020), PP.21~24に掲載したものを著作者様の同意を得て掲載させていただいております。
三備管工株式会社
バルク貯槽の告示検査(くず化)に関する置換方法として,スチーム置換,水置換,窒素置換の三つの方法があることは周知の通りであります。(一社)日本エルピーガスプラント協会殿の機関誌『LP ガスプラント』において,スチーム置換と水置換については実施企業殿が既に寄稿,発刊されております。今回もう一つの置換方法=窒素置換について執筆の依頼があり筆を取らせていただいた次第であります。
当社の創業は1970 年。1973 年には高圧ガス保安協会殿の認定検査会社として業務を始め,その後1976 年に容器検査所を建設,登録し現在に至ります。以前はシリンダー容器の検査も実施しておりましたが2014 年,大型容器と超低温大型容器の再検査に特化すると共に,バルク貯槽の告示検査(くず化)に対応するべく工場の改修を行いました。
◆当社が窒素置換を選択した理由
当社がガス置換において窒素置換を選択した理由は三つあります。
1.プラント検査会社,大型容器検査所として窒素を使用したガス処理や置換を長年実施している
ガス置換を選択する場合,まず頭をよぎるのが安全。その点で当社は貯槽開放検査時の残ガス燃焼~ガス置換や,大型容器再検査時のガス置換において長年窒素置換を実施しているため,安全にそして安心して使用することが出来ると考えました。
2.プラント検査会社として業務を行う関係で液化窒素容器(1 トン)と空温式蒸発器がセットになっている移動式窒素ガス製造施設(写真1)を所有しており,比較的安価に窒素を使用することが出来る
次にコスト。当社は液化窒素を気化して使用するため,1 本数千円する窒素ガス充填容器から窒素ガスを供給する場合に比べ,安価に大量の窒素ガスを使用することが可能でした。(2020 年2 月,工場を新設し現在では定置式:液化窒素CE(5 トン)と空温式蒸発器で置換用窒素ガスを供給)
写真1:移動式窒素ガス製造施設
写真2:定置式窒素ガス製造施設
3.当社がある地方は比較的温暖な気候であり,長年自然気化で使用してきたバルク貯槽においても,寒冷地に比べて貯槽内に残留しているドレン分が少ない
三つ目はドレン分の量。ゼロではないものの寒冷地に比べてドレン分が少ないため,処理も比較的簡単であり,臭気も消臭剤の使用でほぼ対応可能なレベルでした。
◆窒素置換方法
当社では2 種類の置換方法を実施しています。
1.バッチパージ
貯槽や容器(以下,貯槽等という)内に窒素ガスを封入⇒圧抜きを繰り返して置換します。バッチパージはフローパージに比べて短い時間で置換をすることが可能ですが,フローパージに比べて数倍~十数倍の量の窒素ガスが必要となります。
2.フローパージ
窒素ガスを貯槽等内に流し入れながら⇒他方で大気放出して置換します。フローパージを実施する場合,概ね2 時間/本をかけて置換しております。今回新設した工場では放出管の途中から大気放出中のガスをサンプリングして定置式ガス検知器(赤外線式)にて可燃性ガス濃度を常時測定しています。置換ガス中の可燃性ガス濃度が20%LEL 以下になると窒素ガス供給からエアー供給に切り替わる自動制御としました。
バッチパージかフローパージのどちらを選択するかは,貯槽等の大きさや処理要求時間によって決定しています。
◆窒素置換における注意点
窒素置換においてまず注意することは,可燃性ガスの濃度です。
1.置換ガス中の可燃性ガス濃度を確実に測定する
通常ガス検知によく使われている接触燃焼式や気体熱伝導式のガス検知器では,ガス導入管途中にエアーを吸い込むためのミキサを取付けて表示された濃度を2 倍にして読んだり,初期設定が煩雑だったりと,濃度測定時にミスが起こる可能性が非常に高いと判断し,当社では置換ガス中の可燃性ガスを簡便に測定出来る赤外線式のガス検知器を使用しています。
次に窒素置換において切り離せないのが,安全な大気放出です。
2.安全な大気放出を実施する
置換初期は高濃度の可燃性ガスを大気放出することになり,周囲の状況と置換ガスの拡散については十分に気をつける必要があると考えます。当社新工場では高さ19m の脱気塔を設置し,放出管から出たガスを更に拡散するため脱気筒上部にエアー駆動の送風機を設置しています。
写真3:ポータブルガスモニター(赤外線式)
写真4:定置式ガス検知器(赤外線式)
写真5:脱気塔上部
◆自動化した窒素置換状況
◆窒素置換使用機器類
当社の窒素置換で使用している機器類をご紹介致します。
①液化窒素CE 及び空温式蒸発器(写真:2)
液体の窒素を蒸発器で気化させて窒素ガスを供給しています。
②赤外線式ガス検知器(写真:3,4)
置換ガス中の可燃性ガス濃度測定に使用しています。
③脱気塔(写真:5,9)
高い位置で大気放出をするための鉄塔です。高さは19m あります。
④エアー駆動送風機(写真:6)
高さ19m の鉄塔上部で大気放出された置換ガスを更に拡散するための送風機です。脱気塔上部に設置しています。
⑤置換用ヘッダー(写真:7)
置換用窒素ガスと置換用エアーの供給を電磁弁で切替るシステムを5 セット組み込んでいます。
⑥パージ制御盤(写真:8)
定置式の赤外線式ガス検知器と連動させて,上記置換用ヘッダーの作動を制御しています。
写真6:エアー駆動送風機
写真7:置換用ヘッダー
写真8:パージ制御盤
写真9:本社/南倉敷工場
◆後 記
スチーム置換,水置換,窒素置換各々にメリット・デメリットがあります。窒素置換のメリットは安全かつクリーン。またデメリットはやはり窒素ガスのコストではないでしょうか。先にも述べさせていただきましたが,当社は本業のプラント検査や大型容器の再検査で大量の窒素ガスを使用するため,安価に大量の窒素ガスを使用することが可能という前提条件があったからこそ窒素置換を選択することが出来ました。
これから数年後にピークを迎えるバルク貯槽の告示検査(くず化)。今後も安全に,そして円滑に実施してLPG 業界の一助を担えればと思っております。