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日本車輌製造の生産現場における安全への取組み(JLPA機関誌 Vol.57 No.3, 2020掲載)

本記事は、JLPA機関誌『ガスプラント』 Vol.57 No.3(2020), PP.17~19に掲載したものを著作者様の同意を得て掲載させていただいております。


日本車輌製造株式会社 衣浦製作所

1. まえがき

 日本車輌製造株式会社 衣浦製作所(以下,衣浦製作所)は,愛知県半田市に位置し,各種高圧ガスの安全な輸送・貯蔵を実現するタンクローリ,貯槽などの物流製品をはじめ,大型自走式キャリヤ,大型 AGV などの輸送用機器,橋梁,各種鋼構造物など幅広い製品の製造拠点となっています。これら製品の製造現場では,共通してクレーンでの重量物吊上作業,高所作業,溶接作業が常に伴います。そのため,墜落・転落,挟まれ,火傷などの重大災害に繋がる多くの危険要因があり,これらに対する安全への取組みを一つひとつ全員で確実に実施して日々作業を行っています。

2. 概 要

 衣浦製作所では,全社スローガンである「安全は全てに優先する」を掲げ,製作所全体および各職場において様々な安全活動に取組んでいます。
 ここでは,安全への取組み事例として以下の 3 例についてご紹介します。
 (1)作業班ごとに実施する KY 活動「作業観察活動」
 (2)若手社員への安全教育「カッターナイフ使用方法」,「安全運転指導」
 (3)各種安全表示の充実「クレーン・玉掛け災害の防止」

3. 詳 細

(1)作業班ごとに実施する KY 活動「作業観察活動」

 製作所全体の安全活動として,当日の作業に関する SKY(ショート KY)「KY ミーティング」を毎日実施し,イラストや作業写真を使用した 4RKYT(4ラウンド KY トレーニング)を毎月 1 回実施しています。しかし,各職場の作業班によって作業内容や人員構成が異なり,若手とベテランで危険感度に差があるなど,効果が十分ではない面があります。
 そこで,作業班ごとに,それぞれの作業に合わせて工夫を凝らした独自の安全活動に取組んでいます。

 

写真 1. 作業観察状況

 今回は,高圧タンク製造に携わる作業班(以下,高圧タンク班)における事例を紹介します。高圧タンク班は,所属人員 10 名で構成され,タンク缶体に管座,内部配管,サブフレーム(シャーシフレームにタンクを架装する為の部材)および受台の取り付けを行っています。班員は,一連の切断,溶接,研削,クレーン作業をすべて行うため,危険に対するリスクは班員全員で共有すべきであり,「チームで作る安全意識」を合言葉に,独自の安全活動として「作業観察活動」に取組んでいます。
 「作業観察活動」は,その名の通り,月 1 回班員全員で,一人の作業者をモデルとし,実際の作業状況を観察し,作業観察後に各自が気付いたヒヤリや,危険要因,もっと安全な作業方法,設備面での改善案などを自由に発言して話し合い,危険要因を排除して安全の向上につなげる活動です。
 一例として「タンク上での溶接作業,仕上げ作業」の作業観察では,班員からは以下の意見が出ました。
  ・グラインダの切粉で足を滑らせて転落する
  ・タンク上での歩行時に部品に躓き,転倒・転落する
  ・安全帯の調節・着用が不適切だと効果がない
  ・エアーホースが足に絡まり転倒・転落する
 これにより班員全員で,具体的な危険要因やヒヤリ体験が共有でき,自分たちが本当に危険な作業に従事していること,危険要因が非常に多いことにあらためて気づけました。それらを危険要因の排除や作業手順の見直しにつなげることができたことは大きな成果となっています。このように様々な作業の観察を続けることで,班員全員の危険感度の向上,安全意識の向上,基本ルールの徹底,安全行動の徹底につながっています。また,このような作業観察を行うことは,ベテランから若手への技能伝承を行う良い機会にもなっています。

(2) 若手社員への安全教育「 安全運転指導」,「カッターナイフ使用方法」

 最近の若手社員の中には,車の個人所有が減っているためか,車を運転する機会が少ない人も多く,自家用車による通勤時や社用車運転時における事故リスクが高くなっています。不慣れな運転による交通事故の発生を防ぐため,自動車学校の安全運転講習の再受講や,希望者には,構内敷地を利用した社用車による運転講習にも取組んでいます。また,若手社員の中には,学校や家庭でカッターナイフを使用する機会が少なく,取り扱いに不慣れな人もいます。カッターナイフは日常業務の中で使用する機会がありますが,使い方を間違えると切創など重大災害にもつながります。これに対し,専用の保護具(耐切創手袋,カッターガイド)の整備を進めるとともに,カッターナイフ使用方法に関する教育も実施しています。
 将来を担う若手社員が,各職場で安心してそれぞれの技能を高め,現場作業に臨めるよう安全教育の充実とフォローアップに努めています。

写真 2. 耐切創手袋及びカッターガイド

(3) 各種安全表示の充実「クレーン・玉掛け災害の防止」

 当製作所は,高圧タンク,橋梁,キャリヤなどの大型の鋼構造物を取り扱っているため,クレーン作業時,玉掛け作業時における不安全行動は,重大な災害に直結してしまいます。
 一例として「吊り荷は落下するもの」と常に認識することが重要であり,写真 3 に示す「吊り荷の下に入るな!」のような表示を天井クレーン,工場建屋内の随所に目立つように掲げるなど,各種の安全掲示を充実させ繰り返し周知により安全意識を高める取組みをしています。

 

写真 3. クレーン・玉掛け災害根絶のための構内表示

4. まとめ

 ここに紹介した安全への取組みは一例となりますが,製作所「全員」で災害に対する安全意識を高め,危険感度の向上を図るため,独自の KY 活動の推進,安全教育の充実,若手社員のフォローアップなど,生産現場における安全な職場環境づくりに努めています。