東京貿易メカニクスのDXへの取組みについて(JLPA機関誌 Vol.61 No.1, 2024掲載)
東京貿易メカニクス株式会社
中尾孝
森山文男
東京貿易ホールディングス株式会社
村中司信
1.まえがき
東京貿易グループは,東京貿易ホールディングス(株)を持株会社とする,国内外16社の事業会社から構成される企業体です。2020年12月よりグループ全体での取組みとしてDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進する体制づくりを行っています。東京貿易メカニクス(株)では,全社でのDX推進の取組みの流れを踏まえ,複数のDXの取組みを行っています。今回は,東京貿易グループのDXの取組みと東京貿易メカニクスのDXの取組みについてご紹介させて頂きます。
2.東京貿易グループにおける『DX推進プロジェクト(以下PJ)』の方向性
東京貿易グループではDX推進体制の構築とDX推進戦略の策定をスタートさせるべく,2020年12月に『DX推進PJ』を立ち上げました。まず,活動当初の1ヵ月間で「東京貿易グループにとってのDXとは何か」についてDX推進PJ内で定義し,2021年1月に以下の内容を『DX宣言』として発表しました。
<冒頭宣言>
東京貿易グループは,DXの実装に向けた取組みを本格的に開始致します。本件により,グループ各社が持続的成長を可能にする体制を構築します。同時に,生産性を向上させ,ワーク・ライフ・バランスを実現します。
<Why DX ?(目的)>
東京貿易グループを取り巻く環境は変化しており,新型コロナウイルスの影響もあり,その速度は急激に増しています。このような環境下で持続的に成長するため,変化を推し進める必要があります。「企業としての更なる成長」「生産性向上」は経営方針の重要な要素としても掲げています。業務改革,事業改革,働きがい改革を通して東京貿易グループの風土改革を目指します。
『DX宣言』の発表後,DX推進PJで“なぜ”を更に掘り下げ,東京貿易グループがDXに取組む目的の本質を「企業としての競争優位性を確立すること」,その中でDXを「ITの活用を通じて,ビジネスモデルや組織を変革する」ためのツールと位置付け,2021年4月に以下の内容を『DX構想』として発表しました。
<構想名>
構想名は『TOMAX ~未来づくり大作戦~』です。TOMAXはTOMAS(注)とDXを掛け合わせた造語で,“To Maximum”としてグループ事業の最大化を目指すべく強力に推進していくことをイメージしました。
(注)TOMASとは,弊社の前身である東京貿易商会の英文名「Tokyo Merchandise Company Ltd.」の電信略号(テレックスなどで使用)です。
<ロードマップ>
大きくは業務改革および事業改革,この2つの改革を通じた風土改革です。その中で具体的には4つのレベルを設定しました。
DXレベル1:“生産性の向上”をキーワードとした『全社オペレーション改革』
DXレベル2:“顧客満足度の向上”をキーワードとした『エコシステム改革』
DXレベル3:“企業価値の向上”をキーワードとした『事業モデル改革』
DXレベル4:“存在意義の向上”をキーワードとした『社会改革』
今取り組んでいるDXレベル1では,業務オペレーションに焦点を当て,全体最適視点をもって全社的なオペレーション改革を行います。オペレーションを磨き上げていない状態で自動化等を行ったとしても,それは無駄な投資や今後の進歩の妨げになりかねないので,そうならないためにも,『OE(オペレーショナルエクセレンス/Operational Excellence)』を導入し,業務オペレーションにおいても顧客へ提供する価値を常に意識し,競争優位を生み出すべく徹底的に磨き上げ,DXレベル2以降も各レベルに見合った,お客さまに提供すべき価値を生み出すオペレーションを進化させていくことが必要と考えています。
2.1 東京貿易グループでの具体的な取組み
TOMAX ~未来づくり大作戦~では,DX推進の主軸として「全社オペレーション改革の推進」を,『顧客起点』『全体最適』『全員参画』の3つの観点に基づき,東京貿易グループ全体としてより高い生産性を獲得し,会社・事業の成長を支えるための基軸として掲げており,以下の3つの取組みを通じて実践しています。
<MDLP(デジタルリテラシー習得プログラム/Mastery Digital Literacy Program)の展開>
論理的思考を基本とした,厚みのある,世界で通用する生産性向上スキルを獲得してもらうべく,東京貿易グループとしてのデジタルリテラシーを5つのスキル(論理的思考/データ構造化/ITツール利活用/データ解析/業務の磨き上げ)に絞り込みました。この5つのスキルについて「わかる」「できる」「教えられる」の3つのステップで講座展開し,グループ全員のデジタルリテラシーを高め,総力戦でDXに取り組むことができる土台づくりを目指しています。
<Operational Excellenceの実装>
DXを通じて生産性を高めていくためには,現行をなぞった単純なデジタル化ではなく,そもそもの業務の取捨選択・見直しが必要となります。ここで,東京貿易グループでは生産性向上に向けたアプローチとして『OE(Operational Excellence)』を導入し,各社・各部門におけるOEによる生産性向上活動(顧客提供価値に寄与する仕事への資源の集中化,簡素化,自動化,会議体の整理等)を推進しています。
<TOMAX AWARDSの開催>
全社員が日頃から取り組んでいる生産性向上案の実績・ノウハウを共有できる場として,『TOMAX AWARDS』を開催しています。グループ全体からの積極的な応募に基づいた,社員によるボトムアップでの業務改善の想起,および各社社長の評価者としての選考への参画を通じた,自社に優れた改善案を取り入れたいというトップダウンでの業務改善の動きの創出を目指します。
「MDLPの展開」,「Operational Excellenceの実装」および「TOMAX AWARDSの開催」の相乗効果が,直接的な自社への貢献と,間接的な東京貿易グループ全体への貢献を生み出し,この取組みを継続することで,よりレベルの高い優れた実績・ノウハウの集積,横展開の活性化へと導き,東京貿易グループの持続的・永続的な価値向上を目指していきます。
3.メンテナンス業務デジタル化への取組み
東京貿易メカニクス(株)サービス部では,働き方改革を推進する目的で一昨年に現場携帯型タブレット端末を導入しました。年間約1600台の機器メンテナンスを実施しておりますが,導入後は作業結果を現場でタブレットに入力すれば報告書は電子化するため,メンテナンススタッフはオフィスに戻り整備報告書を作成する手間が省けるなど生産性向上を図ることができました。その内容を以下にご紹介致します。
3.1デジタル報告書(X-gate)の概要
従来は現場で検査や整備を行った結果を下書用の紙に記入し持ち帰り,オフィスにて整備報告書の作成を行っていました。特に繁忙期では現場作業と整備報告書作成を行わなければならず,必然的に残業時間が増加傾向になり労務管理面での苦労が多々ありました。このシステムを導入したことにより,タブレットから報告書作成画面を呼び出し,整備結果を入力すれば現場でも整備報告書の作成が可能となりました。
ここで作成した整備報告書は,デジタル端末を利用してオフィスに送信できるため,出張中であってもオフィスに送られた整備報告書は直ぐにプリントアウトが可能で処理速度が大幅に向上しました。
検査や整備結果の写真は,台紙ページを読み出し,タブレットに付属のカメラで撮影すれば,直接台紙に張り付けることができ編集もしなくて済みます。また,肉厚測定結果は,音声入力が可能でありタブレットに直接手打入力せずに済みます。
(写真撮影状況)
(音声入力状況)
(報告書の写真台帳)
(音声入力結果)
3.2現場とオフィスの連携
トラブルの際には,機械の不具合状況などの写真や情報をタブレットからオフィスに送ることによって,社内から熟練者がダイレクトに遠隔支援ができるため,高度な技術やノウハウの伝授を実作業で実践しています。故障などが発生した場合の修理に関してもトラブル事例をクラウド内に保存しており,事例検索によって類似の事象を参考にして素早く原因究明を行うことに役立てています。また,過去に実施した全国各所の機器メンテナンス報告書をタブレット上で閲覧することもでき,メンテナンススタッフは過去の結果を確認しながら最適な作業を実施することが可能となりました。
3.3工程管理について
全拠点に在籍するメンテナンススタッフのシフト状況をタブレット上でリアルタイムに確認できるようになったことで,スケジュール調整を円滑に管理することができるようになりました。緊急時でも,いち早くお客様のもとへ駆けつけられる体制をこれにより構築することができました。
タブレット端末の導入により,これまで課題であった繁忙期の時間外労働時間は大幅に短縮することできるようになりました。今後は,AI技術を活用したメンテナンスサービスを目指して取組んでいく予定です。
4.インターネット「IoM」サイトを使用した部品調達
東京貿易メカニクス(株)横浜工場・福岡工場では,LPGや都市ガス,その他産業ガス用機器などを製造するにあたり,機械加工部品の多くを自社で製作しています。しかし,数量が多いとき,繁忙期で加工作業人員が割り当てられない時などは外製をしています。外製するときは,数社の部品加工業者へ図面や加工仕様などの情報をメールやFAXで送付し,時には追加説明を行い,見積をとります。その後,見積価格やリードタイムを比較して,加工業者を決定し発注を行います。この場合,発注までの見積作業に多くの時間を費やしているのが現状です。さらに,従業員の高齢化や今後の後継者の雇用問題などもあり,その改善のために「IoM」を導入し運用することとしました。
4.1「IoM」とは
「IoM」とは,Internet of Manufacturingの略語で,様々なニーズをもったお客様と高い技術力を持つものづくり企業を岡野バルブ製造株式会社(以下OV社)が運営するプラットフォームでマッチングするサービスです。
インターネットの「IoM」サイトを通じて見積依頼をすると,「IoM」参画企業の数社から見積が出てきます。その中から価格やリードタイム等がマッチする業者を選択して発注する仕組みです。質問や問い合わせなどのやり取りもできます。また,「IoM」参画企業は,高い品質が要求される原子力関連のバルブの製造を行っているOV社が決めた基準をクリアした企業のみで構成されているため,品質不具合の可能性は低く,万が一発生した場合は,OV社が保証し,直接,参画業者と対峙することはありません。発注や支払もOV社が行います。
4.2「IoM」を使用した結果
これまで数社に対して見積作業を実施していましたが,1回の見積作業で相見積を取ることができて,見積作業に要する時間を大幅に削減することができました。また,これまで自社で加工が難しかった形状や材質の加工が可能となり,材料選定や加工形状の相談などもできるようになったため,製品レパートリーが増える結果となりました。
現在では,機械加工部品のみでの利用ですが,溶接や表面処理など機械加工などを得意分野としている企業も多く参画しているため,活用を広げることを視野にいれていきたいと考えております。
5.さいごに
東京貿易グループは, “存在意義の向上”を目標に全グループを挙げてDX推進の取組みを行っており,16の事業会社では,まずは,それぞれ生産性向上を目標にDXの視点から業務の改善活動を行っています。東京貿易メカニクスでは,今回ご紹介させて頂いた2つの事例以外にもDX化による複数の業務改善活動を行っています。そして,引き続き,“生産性向上”~“顧客満足度の向上”~“企業価値の向上”~“存在意義の向上”に向けて弛まぬ取組みを行っていく所存です。