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【機関誌特集記事】 猛暑から作業員を守る 会員企業の熱中症対策最前線 Part2(Vol.63 No.3)

-DX技術による「見守り」の進化と,機動的な現場環境整備の実際-

一般社団法人 日本エルピーガスプラント協会

1.はじめに

 近年,地球温暖化に伴う夏季の記録的な猛暑は,もはや一時的な異常気象ではありません。産業界が直面する恒久的な経営リスクヘと変貌を遂げています。特に高圧ガスプラントや建設現場など,遮蔽物の少ない屋外作業を主とする環境下では,作業員の生命に直結する極めて重要な課題となっています。       
 これまでの熱中症対策の多くは,作業員の自己管理能力や現場責任者による注意喚起, 水分補給の推奨といった「個人の意識」や「主観的な判断」に依存する部分が少なくありませんでした。しかし,WBGT(暑さ指数) の「危険」域が常態化する現代の気候においては,主観的な判断のみでは手遅れになるケースが散見されます。
 本テーマの第2回となる本稿では,最新のDX(デジタルトランスフォーメ ーション)技術を駆使した「科学的な見守り」と,現場の機動性を損なわない「ハ ードウェアによる環境整備」の最新事例を深掘りします。個人の自覚だけに頼らない「組織としての安全管理システム」をいかに構築すべきか,その具体的な方策について考察してまいります。

2.DX技術による「安全の可視化」と未然防止

 熱中症対策において,長年の課題となっていたのが作業員本人の「自覚症状の遅れ」です 。「まだ大丈夫だ」「このくらいで音を上げてはいけない」という主観的な思い込みや責任感が,気づかぬうちに身体を限界まで追い込み,重症化を招くケースは少なくありません 。とりわけ遮蔽物の少ない酷暑のプラントでは,一瞬の判断ミスが重大事故に直結します。この「主観に頼る安全管理」の限界を打破し,科学的アプローチによって対策を未然防止のフェーズヘと引き上げる鍵が,ウェアラブルデバイスとクラウドを活用した安全管理システムの導入です 。

1)ウェアラブル端末による「先回り」の管理

 これまで現場責任者が「顔色が悪い」「汗のかき方が異常だ」といった,目視による主観的な観察に頼らざるを得なかった体調管理は,デジタル技術の進化によって数値化・客観化されています 。
 矢崎エナジーシステム(株)や千代田エクスワンエンジニアリング(株)で導入されている「Work Mate」や「カナリアウォッチ」といったスマートウォッチ型デバイスは,その代表例であり,現場の安全管理を劇的に進化させました 。これらの端末は,作業員のパルス(脈拍),消費カロリー,周囲温度,加速度(活動量)などを常時監視し,独自のアルゴリズムによって,個々の「体調指数」や熱中症リスクを即座に算出する仕組みを持っています。
 特筆すべきは,これらが単なる個人の注意喚起に留まらず,クラウドを通じて一括管理される点にあります 。管理者のタブレット端末には全員のステータスがリアルタイムで表示され, 数値が一定のリスク値(警戒ライン)を超えた際には,装着者本人へ振動(バイブレー ション)アラートで休憩を促すと同時に,管理者側にも即座に異常通知が送られます 。これにより,広大なプラントのどこにいても,管理者主導で「先回り」して適切な休息や水分補給を指示できる確実な防護網が構築されています 。 

2)リスク層への重点配備

 熱中症のリスクは,当日の環境 (WBGT値)だけでなく,作業員個人の身体的要因に大きく左右されます。一律の基準で休憩時間を設定するだけでは,個々のリスクに対応できないという課題がありました。
 千代田エクスワンエンジニアリング(株)では,特に熱中症リスクが高いとされる高齢の作業員や,既往症(糖尿病・高血圧など)を持つ対象者約 1,200名に 対して,パルス監視に特化した「カナリアウォッチ」を重点的に配布しています。これにより一律の休憩設定では見落とされがちな「個人差によるリスク」を定量化し,発症を最小限に抑制することに成功しています 。   

3)蓄積データの分析による 「予防的」な配員計画

 DX化の真の価値は,リアルタイムの監視だけでなく,蓄積されたデータの分析にもあります。過去の作業ログから「どのエリアの,どのような作業が,何時頃に最もリスクが高まるか」を分析・予測することで,より安全な作業計画の策定が可能になります。
 たとえば,高リスクが予想される時間帯の作業を回避したり,あらかじめ監視要員を重点的に配置したりといった「データ駆動型の予防措置」を講じることで,現場の安全性を一段高いレベルヘと引き上げることができます。

3.ハードウェアと運用の進化

 DXが「ソフト面」の監視を担う一方で,現場の物理的な環境をいかに「涼しく」作り替えるかというハード面の工夫も進化を遂げています。特に,備え付けの休憩所まで距離がある広大な現場においては,対策の「機動性」が成功の鍵を握っています。

1)車載装備による 「オンデマンド休憩所」の創出

 陽品ガスエンジニアリング(株)や斎藤高圧(株)では作業現場が移動しても作業環境が保てるよう,車両に「日除けタープテント」を常備しています。現場に到着後,わずか数分で車両の脇に快適な日陰を創出できるこのシステムは,作業エリアが点在する状況において極めて有効な手段となっています。
 また,(株)ガス檢や西日本高圧ガス(株)では,車両に移動用の冷凍庫を搭載しています。保冷剤や飲料を常に氷点下で管理し,作業箇所でいつでも「冷たい物理的冷却材」にアクセスできる体制を整えています。これは単なる利便性の向上にとどまらず, 緊急時の冷却処置(首筋や腋下の冷却)を即座に行える救命設備としての側面も兼ね備えています。

2)大規模配布による 「水分補給のインフラ化」

 千代田エクスワンエンジニアリング(株)では,夏季期間中に年間約33,000本という膨大な量の経口補水液やスポ ーツ飲料を無償配布しています。ここで注目すべき点は,これらを「希望者に配布する」のではなく,現場の各所に「常備・強制提供」している点です。
 水分補給を個人の準備に委ねてしまうと,持参した飲料を飲み切ってしまった際などに,補給が途絶えてしまうリスクが生じます。同社のように,組織がインフラとして飲料を提供し続けることで,「喉が渇く前に飲む」という予防行動を物理的に担保しているのです。

3)作業環境改善への取り組み

 タンクロ ーリの充填エリアは,屋根が高く日差しが差し込みやすい特有の空間です。
C社ではここに産業用の高圧ミストノズルを配置し,気化熱によって周囲温度を3~5度低下させる取り組みを行っています。
 また,(株)ハマイでは作業場所に空調付き休憩用ビニー ルブースを設置しています。これにより酷暑作業場における作業環境改善と熱中症体調不良者の即時退避できる場所を確保しています。

4.業界特有の課題:防爆エリアにおける安全のジレンマ

 LPガス業界において,熱中症対策の大きな壁となっているのが「防爆エリア」での規制です。

1)防爆型空調服(ファン付きウェア)の現状

 非防爆エリアでは必須装備となった空調服(ファン付きウェア)ですが,火気厳禁のエリアでは使用できる製品が限定されます。現場からは「防爆構造のためにバッテリーが重い」「酷暑下では外気を取り込む効果が限定的」「価格が高く全従業員分を揃えるには多額のコストを要する」といった声も上がっています。
 これに対し,保冷剤との併用や,防爆性能と軽量化を両立させた新機種の導入が各社で進められています

2) 水冷循環式ウェアの現場運用性と維持コスト

 ファン(外気)に頼らない水冷式は,防爆環境や粉塵の多い現場に非常に適していますが,冷却用の氷が酷暑下では短時間で溶け切ってしまうという課題があります。大規模なプラントであれば製氷機で対応可能ですが,小規模な拠点や出張点検では,氷の補充インフラを維持すること自体が大きな負担となっています。
 また,氷の調達・保管体制が作業計画に影響する場合もあり,夏季の長時間作業では適切な運用管理が求められます。近年は冷却効率や軽量性を向上させた製品も登場しており,現場環境に応じた機種選定が重要です。 今後は,運用面の工夫と併せて,実用性と経済性を両立した対策機器の普及が期待されています。

5.まとめ:持続可能な安全文化の醸成

 LPガス業界における熱中症対策は,もはや個人の努力に頼るフェー ズを終え,デー タ(DX),物理環境(ハード),組織ルール(ソフト)の三位一体での「システム的アプローチ」が不可欠です。
 ある会員企業の調在では,「同一現場において,装備の着用者で熱中症発症が1名に対し,未着用者では8名も発症した」という極めて示唆に富むデー タも報告されています。ただし,どんなに優れたDX技術やハードウェアを導入したとしても,最終的には「それを正しく使う」という組織ルールが重要です。最新技術による「予兆の検 知」と,ハー ド面による「瑣境の改善」,「決して無理をさせない,しないという安全文化」,この三者が融合して初めて過酷な気候条件下での真の「安全」が達成されます。
 また,自社社員だけでなく,配送業者,設備工事会社など,プラントに関わるすべての方々を対象とした安全基準を策定する必要があります。飲料の提供や冷却ブースの共用,緊急時の救急対応の共有など,垣根を超えた「プラント全体での安全インフラ」の構築こそが,業界全体のレジリエンスを高める鍵となります。

 当協会といたしましては,今後も会員各社の先進事例を継続的に収集・公開し,最先端の知見を共有することで,過酷な夏季環境下においても,すべての作業員の皆様が安全に働ける環境の実現に向けて邁進していく所存です。

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~2026年2月実施 会員企業向けアンケート集計結果~
                       (順不同・敬称略)

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