本記事は、JLPA機関誌『ガスプラント』 Vol.61 No.2(2024), PP.21~24に掲載したものを著作者様の同意を得て掲載させていただいております。
岩谷産業株式会社
当社は1930年の創業時より,「世の中に必要な人間となれ,世の中に必要なものこそ栄える」という企業理念のもと,くらしや産業にエネルギー,産業ガス,マテリアルなど幅広い商品やサービスをお届けしています。その根底には,これからの世の中が必要とする新しい価値を創造することで,社会に貢献したいという思いがあり,それが事業推進の大きな原動力になっています。
当社の主力であるLPガス事業は全国330万世帯以上の顧客がその事業基盤になっています。安定供給,お困りごとの解決,保安,地域貢献,環境などさまざまな側面からお客さまのくらしをサポートしています。また,当社は1941年から水素を究極のクリーンエネルギーとして捉え,水素エネルギーの普及に向けた歩みを進めてきました。「住みよい地球がイワタニの願いです」をスローガンに,水素の利活用を通じてCO2フリー社会を実現することで,環境問題という社会課題の解決を目指すとともに,SDGsの達成にも貢献しています。LPガス事業においても,LPガスに水素を混合することによる低炭素化やプロパネーションの実現(グリーンLPガスの合成)に向けた研究など,LPガスの脱炭素化にも積極的に取り組み,お客さま・地域から選ばれる「エネルギー生活総合サービス事業者」へと進化していきます。
当社は2030年に創業100周年を迎えます。来るべき100周年,そしてその先への飛躍に向けて,これからも全てのお客さま,株主・投資家の皆さま,お取引先,地域の方々,そして社員に新たな価値を提供し続け,“進化する総合エネルギー企業”として持続的な成長を目指しています。今回はそんな当社を支える人材育成についての取り組みを紹介させていただきます。
当社は2022年2月に「社員の自律的な成長を促し,能力を最大化させること」を目的に,職能資格や役割ごとのあるべき人材像を定義した「人材要件」をまとめた「2022キャリアデザインBOOK」を社内に向けて発信しました。
それまでの当社では人材要件を明確に設定しておらず,採用基準や人材育成の目的が不明確であることが課題でした。人材要件を策定し,それぞれの職能資格や役割に求める要件を明確にすることで,効果的かつ効率的な採用や育成体系の構築を目指しました。
策定のプロセスとして,まずは社員へのアンケートや適性検査,経営陣へのインタビューなどを通じ,当社の社員と組織の現状を定量的かつ定性的に把握することから始めました。適性検査により,当社の社員が共通して持っている性格の特徴や,高い成果を上げる社員が共通して持っている能力などを特定し,また,組織診断によって,部門ごとの強みや課題を特定しました。そのうえで,10 ~ 20年後に当社が直面する未来環境を予測し,企業理念,経営戦略も踏まえ,あるべき組織像や人材像を議論しながら,当社が将来に渡って社会に必要とされ,かつ企業価値を向上し続けるために社員や組織に必要な能力,知識,考え方,気質などの要素を選定しました。そのうえで,「現状」と「あるべき人材像」の乖離を洗い出し,重要な要素を抽出したものを,それぞれの職能資格や役割ごとに必要な能力や知識などに落とし込むことで,人材要件として設定しました。
キャリアデザインBOOKは,「一人ひとりが自分らしい「色」で自分の個性を活かしたキャリアをデザインしてほしい」との想いを込め,カラフルな表紙としました。また,内容については,今後の世の中の変化に応じてアップデートさせていくことを考えています。
キャリアデザインBOOKの発行に伴い,育成体系を再構築しました。キャリアデザインブックで設定した人材要件を基に,どのような役割の人に,どのような育成が,なぜ必要なのかを社内で議論しました。その結果として,育成を研修と経験に分け,また,その方式をそれぞれ全員参加,選択/選抜参加に分けました。
これまでの研修は,全員参加の階層別研修が中心でしたが,これを機に選択/選抜型の研修を刷新し,拡充しました。具体的には,選択研修として,社員のポータブルスキルを向上させることを目的に,二つのビジネススクールの単科履修の機会を全社員に提供しています。これまでのように全社員一律での機会提供ではなく,社員個人の興味やキャリア形成の希望に応じて,受講する科目を選択できる仕組みとなっています。2022年度に8科目から開始し,2023年度には20科目に拡充しました。今後も社員からの要望や,世の中の変化に応じて科目を拡充していく予定です。また,修了成績に応じて会社から,費用の一部を補助しています。
経験についても新たな取り組みを開始しています。異なる環境下での業務経験を積むこと,また,経営感覚を養うことなどを目的に,若手社員の出向を強化しています。これまではグループ会社への出向が中心でしたが,全くの異業種への出向も徐々に開始しています。自グループ内では得られない経験を積み,異なる分野の知識を習得することで,人間としての成長はもちろんのこと,イノベーションの創出などにも期待しています。また,新型コロナ以来,中断している海外留学などについても,内容を刷新し,再開する予定です。
これまでご紹介した取り組み以外にも,時代の変化や世の中のニーズに合わせたプログラムを社員へ提供しており,特徴的な二つの取り組みについてもご紹介します。
一つ目はDX研修です。自グループのDXを促進するために2023年度から全社員を対象にしたDX研修を開始しました。DXに関わる人材要件を,職能資格やアセスメント試験の結果に応じて,マネジメント人材,企画推進人材,活用人材の三つに分け,必要な研修を受講させています。単なる知識やスキルの向上に留まらず,組織変革やビジネス変革を担えるような人材を育成することを目指しています。2024年度以降も継続して実施することで,DXを担える人材育成を更に強化していきます。
次に企業内大学の技術保安大学についてです。本大学は「市場ニーズに対応できる技術力や,お客様に対して迅速に対応する保安力に精通した社員の育成」を目的に,2023年11月に開校しました。当社の社員であれば誰でも入学することができ,講習,実習,講和で構成される授業を履修し,確認テストやレポートの提出によって単位が認定される仕組みとなっています。エンジニアリング能力,保安能力の向上,水素や低環境負荷商品などの新分野に対応できる知識,経験を修得させることで,脱炭素社会への移行に伴う今後の事業拡大・推進に必要な人材を育成するとともに,チャレンジ精神とやり抜く力をもつリーダーを育成しています。
技術保安大学の開催風景
これらの次世代の人材を育成するための研修を支える施設として,新しい研修所を神戸ポートアイランド(兵庫県神戸市)に建設しています。この新しい研修所においては,環境に配慮したエネルギー源として,純水素型燃料電池や当社 J-クレジットを活用したカーボンオフセットな LP ガスや太陽光発電などを導入する予定です。将来的には,自社で調達したグリーン水素やグリーンLPガスなども活用し,二酸化炭素を排出しないカーボンニュートラルな研修所を目指しています。同研修所を水素の利活用を通じた脱炭素社会の実現に向けた発信拠点とするとともに,水素エネルギー事業の推進に資する多様な人材の育成に活用していきます。